山本素石「志明院の怪」を読んで、すこし怖い話
志明院は、京都鴨川の源流部にある真言宗系の山寺。
岩屋不動の通称です。
日本有数の魔所、魑魅魍魎の跋扈する山寺として知る人ぞ知る名刹なのです。
宮崎駿監督の「もののけ姫」は志明院からインスピレーションを得たとか得ないとか・・・・
志明院についてはその怪異体験を司馬遼太郎氏も書いていますが
私は山本素石氏の「志明院の怪」が好きです。
話は概ねこんな感じ・・・
素石氏は、志明院の近くにアマゴ釣りに出掛けた。
以前、志明院に泊まった時に怖い目にあっているので、
同寺をずっと下った集落の旅館に投宿する予定であった。
ところが運が悪いことに、足首をひどく捻挫してしまった。
私も渓流の単独釣行をするのだが、たった一人で思わぬトラブルに見舞われたときの焦りはリアルに感じてしまう。
木の枝を切って作った杖を使って、痛む足を引きずって山道を降って行く。だが、日も暮れてきたし、とても志明院の下にある集落に辿り着けそうにない。
そこで気は進まないが同寺の住職と懇意にしていることもあり、志明院に一宿を請うことにした。
ここでは志明院に泊まった時の怪異については書いてはいない。
もう、志明院の怪異は当然の事として受け入れてしまっているのである。
素石氏が書き綴るのは志明院へ辿りつくまでの道中の事である。
捻挫した足はひどく痛み、不気味な森の中で日が落ちてゆく
焦りと不安が伝わってきます。
夕暮れ時、逢魔が時である。
後ろについてくる足音がする。ヒタヒタヒタとハッキリ足音がして確実に気配がする。
振り返っても、振り返っても、なにもいない。
そんな怪異を臨場感がある表現で書き綴るのです。
私自身は何となく気味悪い思いをしたことはあるが、直接に怪異を体験したことはありません。
まあ、こんな事もあるんだなとは思っています・・・
渓流釣りの大先輩として敬愛している素石氏の書く作品はどれもが興味深く面白く、渓流釣り人のある種の偏屈な面も、あ~そんなことあるよな、と納得してしまいます。
同氏の作品は面白さや、ちょっと怖いだけでなく、釣り場で困ったとき、判断に迷った時の気持ちに共感できなんとも愛着を覚えるのです。
「志明院の怪」は山釣り 山本素石傑作集(ヤマケイ文庫)に収録されています。